研究
AI倫理・動物倫理・学際研究
倫理学・哲学の理論研究とAIの実証研究を往復し、人間以外の存在をどう扱うべきかを考えます。
専門はAI研究と、AIと動物をめぐる倫理です。AI研究では、差別的バイアスとAIの道徳を扱っています。倫理学では、AIや非ヒト動物など人間以外への道徳的扱いを中心に考えています。また、ヴィーガン、クィア、ノンバイナリーの当事者として、社会の標準から外れる経験について倫理学的な関心があります。
倫理学・哲学の理論研究と、AIを対象にした実証研究の両方に取り組んでいます。抽象的な倫理的問いを評価方法やデータセットへ落とし込み、実証結果をもう一度哲学的に検討することが、研究の基本的な方法です。
倫理学・哲学
- 功利主義、応用倫理、政治哲学から問いを組み立てる
- 道徳的地位、バイアス、判断の正当化を概念的に分析する
↔AIの実証研究
- LLMの道徳理解やバイアスを評価する
- 倫理的な判断を調べるデータセットと評価方法を設計する
AI倫理・AI哲学
AIと人間が、互いの判断や価値観にどう影響し合うかを研究しています。AIに道徳を教え、安全で公平な判断ができるようにすること。そして、AIを使って人間の道徳的な判断をより良くすること。あわせて、哲学研究の自動化が、哲学の進め方や「何を証拠とみなすか」という考え方をどう変えるのかも調べています。
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研究は大きく二つに分かれます。第一は、AIと道徳の双方向の関係です。私たちがAIに道徳を教えるだけでなく、より良い道徳的判断ができるようになったAIから、私たちが道徳を教わる可能性も考えています。第二は、哲学研究の自動化と、それが何をもたらすかです。AIが論文や、哲学の議論で使われる直観的な判断を生み出せるようになることで、哲学の方法や、人間の研究者に求められる役割がどう変わるのかを研究しています。
- AIに道徳を教える:AIが人の意図に沿って安全に働くには、道徳的な問題を理解し、偏り(バイアス)を抑えることが重要です。バイアスは人に害を与え、差別や公平性の問題につながります。また、人間以外の動物を軽んじる「種差別(speciesism)」という形でも現れます。私たちが調査した英語の言語モデル(英語の文章を学習したAI)には、動物の名前を有害な言葉と結びつけたり、動物を物のように表したりする傾向が見つかりました。
- AIに道徳を教わる:人間の道徳性も完璧ではありません。判断に使える時間・情報・注意力には限りがあり、身内びいきなどの偏りもあるため、いつも公平に判断できるわけではありません。AIの道徳的な判断が改善されれば、より多くの情報や立場を検討し、人間の意思決定を支える可能性があります。
- 哲学論文の自動生成:特定の原著論文に対して、アイデア、構成、アウトライン、原稿を順に作り、別の視点から論じる哲学コメンタリ論文を生成しました。こうした実験を通じて、自動化できる部分と、人間が問いを立て、内容を確かめ、責任を負う必要がある部分を明らかにしようとしています。
- AIが生み出す哲学的直観:哲学では、思考実験(「もしこうなら、どう判断するか」を考える架空の事例)に対する人々の直観が、理論を検討するためのデータとして扱われることがあります。では、AIが示す反応も哲学の証拠になるのでしょうか。現在のAIには、人間よりも質問文を読み違えることが少ない面がある一方、質問の順序を変えると答えが変わってしまうなど、影響を受けやすい場合もあり、その可能性と限界の両方を研究しています。
動物倫理
人間社会は、動物がどのような暮らしを送るか、さらには生死までも大きく左右しています。私は、AIが動物にもたらすかもしれない利益と害、動物実験を正当化できるのはどんなときか、動物の利益を政治や社会の議論に反映する方法を研究しています。研究者だけでなく市民や活動家も交えて、動物のための議論を実践する取り組みも行っています。
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私は、動物を政治や社会の影響を受ける存在として捉え、その利益を人間の制度や技術にどう組み込めるかを研究しています。なかでも、AIと動物倫理の接点、動物実験はどんなときに正当化されるのかという問題、人間が動物のために議論する方法に力を入れています。あわせて、肉食や畜産の問題、野生動物の問題、ロボットと動物の関係も研究しています。
- AIと動物倫理の交差点:AIは、画像認識による野生動物の保護、獣医療の支援、車と動物の衝突回避などに役立つ可能性があります。一方で、害をもたらす可能性もあります。動物を追跡する技術が密猟に悪用される、工場畜産(工場のように大量の動物を効率重視で飼う畜産)をさらに効率化してしまう、監視機器が野生動物の暮らしをかき乱す、AIの開発に使う大量の電力や水が生態系の負担になる、といったことです。言語AIが、動物を軽んじる表現を広めるおそれもあります。こうした利益と害の両方を調べ、動物の利益をAIの設計や制度にどう組み込むかを研究しています。
- 動物実験は何によって正当化されるのか:動物への害より、実験から得られる利益が大きければ許される、という考え方があります。しかし、動物実験の結果は人間にそのまま当てはめられるとは限らず、治療などに結びつかない例もあります。期待される利益が不確かなとき、その利益を動物への害と比べるだけで実験を正当化できるのでしょうか。研究の信頼性、代わりの方法の有無、本当にその実験が必要かまで含めて検討しています。
- 人間は動物のためにどう議論できるか:動物自身が研究や政治の場で意見を述べることは困難です。そこで、学会のワークショップなどで、研究者、市民活動家、政治に関わる人々が立場を越えて話し合う場をつくっています。人間は動物の利益をどう理解し、動物のための政治的な意思決定に貢献できるのか。その議論が本当に動物のためになるのかも含め、実践を通じて考えています。
功利主義、クィア、マイノリティの経験
「関係するすべての存在の幸福を等しく数える」倫理学の立場である功利主義から、動物の扱い、貧困、将来世代、AIを考えています。また、ヴィーガン、クィア、ノンバイナリーの当事者として、社会の「普通」から外れる経験がどう見えにくくされるのか、その経験が倫理学に何を問いかけるのかを研究しています。
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私の研究は、功利主義の歴史、現代における展開、当事者としての経験という三つの視点を組み合わせています。ベンタムによるマイノリティや動物の擁護を捉え直すとともに、効果的利他主義や長期主義を功利主義から支持できるかを考えています。また、社会の「普通」から外れる経験や、動物が受ける抑圧を倫理学がどう扱えるかを研究しています。
- 功利主義への誤解:功利主義は、多数者の幸福のためなら少数者を犠牲にしてよい立場だと誤解されがちです。しかし、功利主義の提唱者ジェレミー・ベンタムは、女性参政権、同性愛行為、非ヒト動物への道徳的配慮を擁護しました。功利主義が本当に少数者の犠牲を認めるのかを、歴史と理論の両面から研究しています。
- 効果的利他主義・長期主義:効果的利他主義は限られた資源でできるだけ大きな善を目指し、長期主義は将来世代の利益も重く考えます。これらを功利主義から支持できるのか、また、これらの立場が非ヒト動物などを十分に考慮できているのかを研究しています。
- 当事者の視点から:ヴィーガン、クィア、ノンバイナリーとしての経験から、社会の「普通」から外れる立場が見えにくくされる仕組みに注目しています。こうした経験と、動物への体系的な抑圧を、功利主義からどう理解できるかを研究しています。
AI倫理や動物倫理は、市民、教育関係者、政策担当者、実践者の判断にも関わります。一般向けの執筆、メディア発信、ワークショップ、学術コミュニティの運営にも取り組んでいます。
テーマ例
- AIは人の道徳的判断を改善するのか、操作するのか
- AIのバイアスと、人間以外の動物への影響
- AIによる哲学研究の自動化と、それがもたらす変化
- 動物を含む政治・民主主義と動物倫理
- 功利主義から考えるAI、動物、貧困、将来世代
- 倫理学とAI研究をつなぐ文理融合・学際研究
- クィア、ノンバイナリー、ヴィーガンの経験と倫理
想定する対象
- 一般向けの講演・イベント
- 学生・教育関係者
- AIに関わる研究者・技術者・組織
- メディア・編集者・企画担当者